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【第11回中国国際老齢産業博覧会】迫る高齢者社会への各企業の対策2025.12.09

JETROによって設置された共同ブース

 日本でも深刻な社会問題となっている少子高齢化だが、中国でも同様の課題に直面している。現在、中国では約600万人の介護人材が必要とされているものの、実際の従事者はわずか40万人にとどまり、圧倒的な人手不足が続いている。この状況は、今回の出展企業間で共通認識となっていた。
 こうした課題の解決に向け、11月27〜29日に海珠区の保利世貿展覧館で開催された「第11回中国国際老齢産業博覧会(以下、シルバー産業博覧会)」では、各社がITやAIをはじめとした最新テクノロジーを活用し、中国の介護現場における人材不足への取り組みを紹介した。

来場者は8万人超、高齢化への関心が着実に上昇

 これまで「自分とは関係のない問題」と捉えられがちだった高齢化社会の課題も、50代を過ぎる頃から多くの人にとって避けて通れないテーマとなりつつある。今回の博覧会には、中国、日本、ドイツ、カナダ、イスラエル、オーストラリアなど、50を超える国・地域から出展があり、出展ブースは600以上にのぼった。3日間の来場者は8万人を超え、高齢化社会への関心が確実に高まっていることがうかがえる。
 日本パビリオンでは、JETROが共同ブースを設置し、25の企業・団体が参加。その中で、日本および中国で介護事業のコンサルティングを手掛ける「株式会社エイジングサポート/日本ウエルエージング協会」も代理出展を行った。同社の中島浩司特派員は、「一定の経済力を有する中国の方々の間では、高齢者医療や介護のノウハウを求め、日本を訪れて学ぶケースが増えています」と現状を説明する。

歩行補助外骨格を体験する中島氏

 現在、中国では60歳以上の高齢者がすでに3億人を超え、今後も増加が見込まれる。一方で、介護従事者は約40万人にとどまり、政府試算では約600万人が不足するとされている。こうした状況を踏まえ、同社では認知症介護教育、介護事業のコンサルティング、日本ウエルエージング協会推薦の「消臭達人」などの紹介、日本の介護施設視察ツアーや日本留学の案内など、多角的なサービスを提供した。
 また、同社が運営する独自の情報共有チャットのQRコードをブースに設置したところ、3日間で330名が登録。現場の課題解決に資する日本の介護ノウハウへの関心の高さが、数字としても裏付けられた。

社会的立場の低い介護従事者

北京松果養老有限会社の王氏(写真右)

 なぜ中国の介護従事者が約40万人にとどまっているのか。その背景には、介護の現場を取り巻く厳しい労働環境と、社会に根強く残る偏見がある。同じJETRO共同ブースに出展した、日本パイン・コーン中国代表、北京松果養老有限会社の王開衿・総経理は、アルツハイマー症ケアや在宅介護、人材育成に携わる立場から、「介護従事者という職業が社会的偏見の中に置かれ、希望者が増えない状況が続いています」と現状を指摘する。

 中国では、日本以上に身体を使う職業を敬遠する傾向が強い。特に、保護的に子どもを育ててきた親にとって、自身の子どもが決して高収入とは言えない介護職に就くことは「世間からどう見られるか」という不安が大きく、これが職業選択の抑制要因となっている。こうした社会的偏見が、介護職の魅力を低下させていることは否めない。

 一方、日本では医療・介護分野に携わる多くの人が、自ら学校に通ったり独学で資格を取得するなど、主体的に専門性を高めている。対して中国では、医療・介護関連の学校に通わせる場合でも、家庭が費用を負担して学ばせる“受け身”の進路選択が一般的であり、結果として介護職に進む人材は限られてしまう。必要とされる職種でありながら、社会的地位が低いと見なされることへの抵抗感から、進路を断念するケースも少なくない。
 「先進的な医療・介護ノウハウが蓄積された日本と比較すると、中国では認知症を含む医療・介護への理解がまだ十分とは言えません。行政、つまり国や地方政府が、将来の介護人材を育成するための法整備や補助金制度を整え、人材開発に本腰を入れる必要があります」と王氏は述べる。
 高齢化が急速に進む中国において、介護人材不足は社会全体の課題であり、制度面・教育面の両方向からの改革が急務となっている。

急速に進むIT、AI化、ロボット導入

抖音(tiktok)ブースでは、インフルエンサーたちがEC用に商品のライブコマースを行っていた

洗剤やシャンプーなどの商品をライブ中継

 今回のシルバー産業博覧会で特に目立ったのは、ブース内でのIT・AI活用や補助ロボット開発に取り組む企業の存在である。「人が足りなければ現場をIT化・AI化すればよい」という、中国らしい合理的な発想が随所に見られた。たとえば、生活に深く浸透しているEC(電子商取引)を活用した展示も多く、企業や動画配信サイトではインフルエンサーが出展企業の商品をライブ配信していた。高齢者に喜ばれる生活用品や健康関連商品を紹介することで、高齢社会における新たな需要創出につなげようという狙いがうかがえる。

歩行補助外骨格「GoGo速行外滑骼」を展示する程天科技

広州モーターショーでも話題を集めた華為の「鴻蒙シリーズ」。そのスマート運転席と同様に、家庭でもスマートな生活ソリューションを提供するのが「鴻蒙智家(スマートホーム)」である

 歩行支援ロボットを開発する「程天科技」では、歩行補助外骨格「GoGo速行外滑骼」を展示した。同製品はAIアルゴリズムとインテリジェント制御技術を組み合わせ、使用者の歩行をリアルタイムで解析。歩行、走行、登山、上り坂、下り坂といった多様なシーンを自動判別し、最適なアシスト力を提供する。特に、脚の持ち上げや踏み出しといった重要動作を精密に支援する点が高く評価されている。

ロボット義手も展示

スマート介護犬。かつてのAIBOが進化するとこうなる

 さらに、盲導犬の代替となる「スマート盲導犬」も大きな話題を呼んでいた。北京賽博万智能装備製造有限公司の「大易」や、広州小蒜智能科技有限公司の「NOVA」は、レーザーレーダーや深度カメラなど複数のセンサーを搭載し、屋内外での高精度なナビゲーションを実現。段差や上部障害物、透明・鏡面の障害物など、静止・動的を問わずさまざまな障害物を高精度で回避できるほか、マルチモーダル大規模モデルとコンピュータービジョンにより交通標識や信号機の認識にも対応する。さらに、物品識別や顔認識機能を備え、視覚障害者の外出を多面的にサポートする仕組みが整っている。

中国聯通が管理する養老介護のプラットフォーム

越秀グループが経営する高級老人ホームの越秀銀幸

 また、高齢者の安全確保を目的としたスマートケア技術の導入も進んでいる。夜間の徘徊や、トイレに向かう途中での転倒を早期に発見するため、スマートウォッチを高齢者に装着させたり、ベッド周囲にセンサーを設置し、一定範囲から離れた際に自動的にコントロールセンターへ通知するシステムを活用する施設が増えつつある。通報を受けたスタッフが迅速に駆けつける体制も整備されており、介護現場における見守り負担の軽減が期待されている。

 さらに、不動産大手の越秀グループが展開する「越秀銀幸」も、高齢者向け介護施設を出展し、生活支援・医療連携など多様なサービスを紹介していた。今回の博覧会では、介護の未来を支えるさまざまな技術やアイデアが集結し、まさに“夢のようなビジネス介護”の在り方を感じさせる内容となっていた。

日本で言う福祉車両も出展。しかし、日本で普及している車両と比べるとまだまだ物足りない

人手から逃れられない介護事情

広州モーターショーでは客寄せパンダ的な二足歩行ロボットが活躍していた。しかし、人間を持ち上げる技術にはまだ達していない

 しかし、高度なAI開発やロボット技術が進み、“夢のような介護ビジネス”が語られる一方で、日本パイン・コーンの王氏は「問題は、これらのAIやロボットを活用するには、最終的にお金が必要だという点です」と指摘する。

 現在、一般家庭の年金は月3000〜4000元、公務員でも月1万元前後が平均とされる。一方、スマート介護犬は1台3万元、GoGo速行外骨格でも1台8000元と高額だ。さらに、大手不動産企業が運営する高級老人ホームの利用料も月1万元近くに達し、現状の年金水準では十分とは言えない。ここでは、充実した補助金制度が整う日本との制度的な差が如実に現れている。
 また、一定の経済力を持つ高齢者の間でも「人手よりロボットを選びたい」という傾向が強まっているという。「弊社のブースには、『10万元出すから介護ロボットを紹介してほしい』と話す方もいました」と王氏は明かす。

 介護の現場では、本来は人とのコミュニケーションが重要だが、介護される側の中には意思疎通が十分に取れず、人間よりも命令に忠実に反応してくれるロボットのほうが“気が楽”と感じる人もいる。

 しかし実際のところ、現在のロボット技術はダンスや走行といった動作は可能でも、「人を安全に持ち上げる」といった介護の核心部分はまだ実用化されていない。未来の“ドラえもん”のような存在は、現段階ではまだ遠い夢と言える。

 結局のところ、介護の最後は人手に頼らざるを得ないのが現実だ。だからこそ、介護現場を支える従事者に対する行政の支援は、すでに待ったなしの状態にある。

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