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【中国自動車市場最前線】値引き競争と支払い遅延、制度改革で終焉なるか2025.06.19

日本ではAtto3で売られているこのEVのSUVも今年の4月に約30万円の値下げを行った

 中国の自動車市場は、販売台数・生産能力ともに世界一の規模を誇り、世界中のメーカーや投資家が注目する巨大市場である。その一方で、同市場は長年にわたって特有の商習慣と構造的な財務リスクを内包しており、持続可能性という観点では脆弱な側面を抱えていた。特に、過度な値引き競争とサプライヤーに対する長期的な支払い遅延は、業界全体の健全性を大きく揺るがす要因となってきた。
2024年、中国国内の自動車販売台数は3143万6000台に達し、前年比で堅調な成長を記録した。さらに2025年1月から4月の累計販売台数も前年同期比10.8%の増加を示しており、市場としての活力は依然として高い。しかし、その裏側では、販売競争の激化に伴う財務圧力が深刻化し、一部では「第2の恒大リスク」とまで懸念される企業も現れている。情報源

比亚迪等应付账款缩减至60天,比亚迪还有额外千亿其他应付款!

BYD株価急落の背景「内巻」がキーワード【中国経済コラム】

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250613/k10014833561000.html中国自動車メーカー各社、中小企業代金の支払期限を60日以内とする方針表明

https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/06/55e00402a20a9b25.html

 

01BYDに見る財務リスクの顕在化

 その最たる例が、中国を代表する電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)である。2023年の中間財務報告書において、同社の買掛金が異常な速度で増加していることが明らかとなり、2024年には「その他の未払金」項目が急増。2024年末時点で、買掛金は2416億元、契約負債437億元、その他の未払金1450億元を抱え、これらの合計は総負債の約74%、総資産の55%に相当するまでに膨らんだ。
このような財務構造は、短期で調達した資金を長期投資へと転用する「短債長投」と呼ばれる典型的なパターンであり、企業の資金繰りにとって極めて不安定な状態を意味する。現金化までの期間が長期化すれば、サプライチェーンの下流企業、すなわち部品供給会社や下請け業者は深刻なキャッシュフロー不足に陥ることになる。
 さらに問題を複雑にしているのが、BYD独自のサプライチェーン金融プラットフォーム「迪鏈(ディーリエン)」の存在である。このシステムは、現金の代わりに電子債権を発行し、将来の支払いを保証する仕組みであり、事実上の「企業内通貨」とも評される。電子債権の流通総額は5000億元を超えるとされているが、現金化には5~7%の手数料が発生するため、実質的にはサプライヤーがその分のコストを負担している格好となる。 

02制度改革による是正と業界の転換点

 このような不健全な支払い慣行に対し、中国政府はついに本格的な是正措置に乗り出した。2025年3月24日、中国国務院は「中小企業の代金回収を保障する条例」を施行(6月1日執行)。これにより、大企業が中小企業から物品やサービスを購入した際には、納品から60日以内に代金を支払うことが義務化された。また、支払いを第三者からの入金などの条件に依存させることも禁止され、過去に見られた「泣き寝入り」や「踏み倒し」構造に大きなメスが入った。
この条例の施行を受けて、同年6月10日には、中国一汽、東風汽車、BYD、賽力斯(Seres)などの大手自動車メーカーが「60日以内の支払い方針」への転換を相次いで発表した。さらに、小鵬汽車、理想汽車、小米汽車、零跑汽車といった新興メーカーもこの動きに追随し、業界全体に「支払い正常化」の機運が急速に高まっている。
この変化は、単なる法制度への対応にとどまらず、企業文化やサプライチェーンの在り方そのものを見直す契機となりつつある。特に中小サプライヤーの経営安定は、産業全体の持続性や製品の品質維持に直結しており、今後の自動車業界の成長基盤を支える重要な柱となるだろう。 

03値引き戦争とその代償

 一方で、支払い正常化の背景には、もう一つの大きな問題である「値引き競争」が存在する。BYDは2024年より、大規模な値下げキャンペーンを展開し、市場シェアの急拡大を狙った。その結果、同年の販売台数は427万2145台に達し、2位の吉利集団(Geely)の333万台を大きく引き離して中国市場首位の座を確保した。両社で市場の24%を占めるまでに至ったが、このような急成長の裏には、無理な価格政策とそれによるサプライヤー負担の増加があった。
BYDは2025年度の販売目標を550万台に設定し、値引きによるさらなる拡販を見込んでいるが、これには限界がある。とりわけ体力のない中小サプライヤーにとっては、値引きに伴う利益圧縮に耐えることが難しく、連携関係の断絶や納入品質の劣化を引き起こす可能性すらある。いわゆる「内巻(ネイジュアン)」と呼ばれるこの現象は、業界内部での過剰な競争がもたらす弊害であり、サプライチェーン全体の強靱性を弱体化させる。
中国政府は、こうした過度な価格競争による市場のレッドオーシャン化を危惧し、企業に対して価格政策の自主規律を求めている。競争の質を高め、ブランド価値や製品のイノベーションによる差別化を促すことが、次の成長ステージに不可欠な戦略であると位置付けている。 

04財務健全性と持続可能な成長へ

 以上のように、表面的には好調に見える中国自動車市場であるが、その足元には過剰な値引きと資金流動性の脆弱さという深刻な課題が横たわっていた。これらの問題に対し、制度改革と企業の意識変革が進む今、業界は転換点を迎えていると言えよう。
財務の透明性を高め、サプライヤーとの健全なパートナーシップを築くことは、単なる社会的責任にとどまらず、結果として企業の競争力を高める要因にもなり得る。短期的な販売競争に依存せず、技術開発や製品品質、ブランド価値の向上に重点を置いた中長期的な経営戦略こそが、真に持続可能な成長への道である。
中国自動車産業が世界のトップを走り続けるためには、表面的な成長指標の追求ではなく、その根幹を支える構造改革が不可欠である。制度と慣習が変わりつつある今こそ、業界全体が真の健全化に向けて大きく舵を切るべき時機なのである。

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